これからはじめるCFD



高嶋君観察日記


千代田実子、16歳。
最近とっても気になる人がいます。
とはいったものの好き、とかいうわけじゃないんです。

その人はズバリ同じクラスの高嶋君といいます。
本名は高嶋政彦、かの有名な「申し訳ございませんお客様」の人と一字違いです。惜しい!

彼はなんというか我が道を行くといったかんじで、周りをまったく気にしません。
しかも行動・言動がゆったりおっとりでたまに意味不明です。たまに理解不能です。
そこで、私は高嶋君の偉業を記録すべく観察日記をつけることにしました。
右斜め前の席に高嶋君がいるので観察にはもってこいです。
でも勿論本人には無許可です。まぁ細かいことは気にしません

観察1日目

1時間目 数学
高嶋君はまだ学校に来ていません。
朝ぱらから数学なんてやってられません。

2時間目 世界史
授業が始まって15分後ぐらいに高嶋君はやっと現われました。
いかにも寝起きな顔にボサボサ頭。でも毛色はいつも通りの綺麗な真っ黒。

そんな彼に世界史のおじいちゃん先生は怒鳴りました。
「コラ、高嶋。また遅刻か!」
「朝日がまぶしくて砂になりそうだったんです。」
なぬ?砂?君はドラキュラなのか?
「職員室には寄ってきたのか?(※遅刻届けを提出するため)」
「ココ……行ってきました。」
黒板にかかっていた世界地図を高嶋君が指さしたのですが ……どう考えても学校じゃない
いや、それ以前に日本を脱出してるってどういうことです?
高嶋君、それってクレタ島だよ?!アンタ一体どこに寄ってきたのさ?

3・4時間目 美術
ありがたいことに、実は私は高嶋君の隣です。ウケケケッ。

先週から自画像を油絵で描いています。
まず、油絵用絵の具をオイルで適当な柔らかさにして……。
さっきから気になってたんだけど、私の周りは何故こんなに香ばしいニオイがするんだろう?
高嶋君の持っているボトルのラベルを見てみると、
『オリーブオイル 料理の香づけに丁度良い☆』
「高嶋君!アンタそれオリーブオイル(調理用)だってば!」
確かにオイルはオイルだけど、どう考えても用途が違うって!
「……?あ、間違えた。」
どうやったら間違えるのよ。っていうより何故オリーブオイル持参
これで高嶋伝説がまた一つ増えた。

昼休み
お昼休みになると高嶋君はいつも寝てしまいます。
そして、毎日お昼休み終了10分前ぴったりに起きてご飯を食べるのです。
さて、今日の献立は?
たこ焼きたこ焼きオンリーです。お弁当箱にたこ焼きが入るだけギッシリつまっています。
しつこいようだが、本当にたこ焼きしかありません。主食もおかずもたこ焼きです。

5時間目 生物
お腹もいっぱいで眠いです。
高嶋君はたこ焼きを食べた後すぐにまた寝入ってしまいました。
私も寝るので観察不可能。

6時間目 英語
最後の時間に英語っていうのはかなりキツイです。
早く帰りたいです。
高嶋君は起きてないようで実は起きていらっしゃいます。
「じゃ、次の訳を……高嶋。」
英語教諭(27歳、独身、0.3%イチロー似)は高嶋君にとある英文を訳すように言いました。
問題文は“Hey John!Do you want to be a fireman? ”です。
(解答:“やぁ、ジョン!君は消防士になりたいのか?”)
高嶋君は立ちあがってしばらく教科書を凝視したのち、口を開きました。
「やぁ、ジョン!キミは……炎の戦士になりたいのかい?」
ほ、炎の戦士?なんだそれは?
「……あ、た、高嶋。firemanは『消防士』のこと……ぷっ、だからな。あとは、よ、よくできたな。」
先生はかなり笑いをこらえてるみたいで、すっごい変な顔です。
お世辞にもイチローとは言い難いです。
「あ、はい。」
周りの反応なんか気にせず高嶋君は座りました。
私はこの授業中ずっと炎の戦士が頭から離れませんでした。
私の脳内ではジョンという炎の戦士が火事場で消防士とストリートファイトを繰り広げていました。

観察1日目終了


観察2日目の朝
登校途中に珍しく高嶋君を見ました。
どうやら彼は1時間目からまじめに出席するつもりのようです。
一体彼の身に何が起こったのでしょうか?
新生高嶋君の誕生ですか?

1時間目 古典
珍しく1時間目から出席している高嶋君ですが、
心を入れ換えて真面目に勉学にいそしんでいるのかと思いきや……
普通に居眠りこいてます。新生高嶋は私の思い違いでした。
授業中、彼は寝言を言ってました。
『ん……く、栗ようかん……。』
周りの人々は一斉に高嶋君の方を見ます。
先生も気付いたのですが、すぐに起そうとはせずに寝ている高嶋君に話しかけました。
「高嶋、栗ようかんがどうしたんだ?」
埋めるの。』
何処に?!寝言とはいえこれは突っ込まずにいられないでしょう!
栗ようかんを埋める?それは犬が大切なものを埋めるあの行為と同じなのか?
どんな夢を見てるんだ、高嶋君!!


そんなこんなでこのまま1週間、私の高嶋君観察日記は続きました。

観察8日目を終えて、帰路につく途中私は駅で観察ノートを机の中に忘れてきたことに気付きました。 あれは誰にも見せられない。『落ち着きがなく、たまに挙動不審です。』とかかれた小3の通知表より見られたくない!焦って、学校に引き返しました。20分かかりました。

教室に入ると、高嶋君が窓際に立って外をぼーっと眺めていました。
気付いた時には話かけていました。
「何してるの?」
「外見てた。」
うん、それはわかるんだけどね。だからなんで外見てるのか知りたかったのに。

「千代田は?」
「え?」
聞き返されるなんて思ってもみなかった。ちょっと以外。
他人のことになんて興味なさそうだったたし、ねぇ。
「一回帰ったんじゃないの?」
「私はちょっと重要なノートを忘れちゃって。」
口が避けてもあなたの観察ノートですなんて言えやしないよ言えやしないよ……。
「ふーん。」
高嶋君は再び窓の外を眺めはじめました。

私は机のなかにあったノートを鞄の中にしまいました。
そして、高嶋君の隣に立って窓の外を見てみました。
「外に何かあるの?」
「別に……。」
何もないのか。本当に不思議な人だなぁ。
「千代田?」
「何?」
高嶋君は窓の外から視線を外さずに私に問い掛けた。
「最近、俺のことすっっごい見てる?」
あれ、バレてた?
「ま、まぁね。」
「それでなんか一生懸命メモしてる?」
なかなか鋭い子だったんだね。
ここまで知られてたら正直に話すしかないかぁ。

「あのね、私高嶋君の観察日記つけてるんだよね。」
「?」
きょとんとこっちを見た高嶋君に私は全てを説明した。

「ゴメンね。もうやめるから。」
「なんで?」
「え、だって観察されるなんて嫌じゃない?」
「別に?」
「じゃ、続けてもいいの?」
「いいよ。」
本人の許可頂きました。
これからはコソコソせずに堂々と観察活動をします。
(今までも十分堂々としてたっていう意見は無視)(だからバレてた)

「最後にもういっこ千代田に聞いていい?」
「どうぞ?」
もう隠すことは何もあるまい!!どーんとこい!
「ねぇ、俺の観察してそれからどうなるの?」
「……。」
そこまで考えてなかったわ。
べつに世界旅行とかもらえるわけじゃないし、まぁ趣味
なんていったら、私が変態さんだと思われるわ。なんか違うこと言わなきゃ。

「とりあえず、今のノートがいっぱいになったら考えようかな。」
「そっか、わかった。」

そして、2ヶ月後ノートが観察日記でいっぱいになったその日。

観察39日目
放課後

「千代田すきな人いる?」
「最近できたけど。」
本当に最近だけど、自分でもすっごい驚きの人物でした。
「俺も最近できた。じゃ、いっせーのせ、で教えあっこしよう?」
「わかった。」

「「いっせーのせっ!」」

今日、一組のカップルが新たに誕生しましたとさ。



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