これからはじめるCFD
BOY'S GAME

  • 登場人物が多いので、簡単な人物紹介ウィンドウを用意してみました。⇒ぽちっとな

    僕達小学生
    小上京介と葵駿。
    この二人が出会ったのは小学生の時であった。


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    今から8年前、二人は小学校4年生。
    京介は放課後はいつも近所の公園でサッカーをしていた。
    勿論、駿も同じであった。

    そろそろ春休みに入ろうかと言う時期、3月もすでになかばというある日に事件は起こった。
    風はとても冷たく、容赦なく肌に叩きつけてくる。
    しかし、元気な子ども達にはこんな天気は関係ないも同然だった。

    京介と駿のお馴染の遊び場、『わかば公園』では今日も多くの子ども達が遊んでいた。

    「京ちゃん、パスパス!」
    「はい、卓君!」

    仲間の声に反応して、京介は方向を確認してからパスを出した。
    その後すぐ京介は急いでゴール前に移動した。

    小上京介、10歳。
    この頃は今程日焼けはしていないようだが、頼りない顔立ちは健在。
    「もう一回、京ちゃん!」

    パスを受けた京介はそのままシュート。
    ボールは見事にゴールした。
    しかしこの場に正規のゴールがあるはずもなく、ここでいうゴールというのはただ棒で地面に書いたラインのことだ。

    「スゴイや京ちゃん。将来はプロのせんしゅになれちゃうね!!」
    「うん、僕達の中で1番上手だよねっ!」
    「僕、大きくなったら絶対プロのせんしゅになるんだ!」

    仲間に囲まれた京介は将来の夢を語った。
    プロサッカー選手になるというのは幼稚園からの夢だった。

    突然ざわざわと公園の出入り口が騒がしくなった。
    今までその場で遊んでいた子ども達が次々と中断し、道を開けていく。
    その道を通って京介達の遊んでいた公園中央にやってきたのは小学生のくせにこの近辺では悪名高い6年生軍団だった。

    「今からここは俺達が使うんだ、他のやつは出ていけ。」

    6年生軍団は予想通りの行動に出た。
    マニュアルでもあるのではないかというほど、お約束なやつらである。
    今まで居た子ども達のほとんどは逆らわない方が良いと悟り、大人しく公園を後にした。
    しかし京介達だけは動こうとはしなかった。
    というより京介が動こうとしなかったのだ。

    「ねぇ京ちゃん、早く違う公園に行こうよ。」
    「なんで?」
    「だって、この人達に逆らわない方がいいよー。」
    「だからなんで?」

    まさかコイツ知らないんじゃ……、説得にかかっていた仲間達は一斉にそう思った。

    「ごちゃごちゃ行ってねぇでさっさとどっかに行け。」

    しびれを切らしたように6年生軍団の頭らしき人物が怒鳴り散らした。

    「なんで? てゆうかあんた達ダレ?」

    言っちゃった!
    京介サイドの仲間達はおもいっきり焦った。
    例えるならばテスト終了残り1分で裏にも問題があることに気付いた時のような焦りっぷりである。

    「あ?俺達を知らないのか?俺達は6年生様だ!だからここは俺達のものなんだよ。」
    「そんなの理由になってないんじゃないスか?」

    明らかに京介のものとは違う声が聞こえてきた。
    6年生軍団は右手側、京介&仲間達は左手側を見ると、少年3人が立っていた。
    その中の一人が駿であった。先ほどのセリフは駿のものだ。

    葵駿、10歳。この時から周りより少し背が高かった。
    色素が薄く、ちょっとクセのある髪の毛は今と変わらない。

    「なんだと?」
    「だから6年生だからって公園を占領する権利なんかないって言ってるんです。」
    「生意気言ってんじゃねーよ!」
    「生意気もなにも、こっちだってたかが2年早く生まれただけの人間にそんなに威張ってもらいたくないね。」
    「……アーン?どこまでも生意気だなお前。」
    「そりゃどうも。」

    6年生軍団の怒りの矛先は完全に京介から駿に変わったようだ。
    そのやりとりを京介達は黙って見ているしかなかった。

    「じゃぁサッカーで勝負してお前らが勝ったら俺達はもう占拠はしない。それでいいだろう。」
    「わかった。」
    「5対5で先に3点取った方が勝ちな。」

    あっというまに6年生軍団と駿達の間で試合の約束がなされてしまった。

    「ねぇ、僕達の方人数足りないんだけどあと二人混ざってくれる?」

    駿は京介達グループに応援の要請をした。

    「僕やるよ、でもあともう1人足りないね。えと、卓君!やろう?」
    「え……。」

    卓と呼ばれた少年は少々ためらったがすぐに了承した。
    これで駿グループの3人と京介、卓の合わせて5人のチームができあがった。

    「そっちも人数が揃ったみたいだし、すぐに試合開始といきたいところだが、まず作戦タイムをやるよ。10分後に始めるからな。」

    どこまでも偉そうな6年生である。
    将来どれだけひねくれた大人になってしまうのか心配されるところだ。
    その横で京介と駿率いる4年生チームは小さな円になって自己紹介をしていた。

    「えっと、まずは名前教えてくれる?僕は葵駿。」
    「僕は小上京介。」

    この後も残りの少年達が名乗っていく。
    この10分間は作戦会議としてではなく世間話のために費やされた。
    あ、あの先生面白いよね!、というような話を延々としていたのである。

    「オラー始めるぞ!さっさと準備しろ。」

    6年生軍団の掛け声でキックオフ。

    試合はあっさり終了した。
    実際6年生は弱くはなかったのだが、京介と駿の見事なコンビネーションの前では無力すぎた。
    とても初めて一緒にプレイするとは思えなかった
    結果は1−3で4年生チームの勝ち。
    ちなみに6年生軍団の方の1点は京介の自殺点だ。
    最初に攻める方向をうっかり間違ってしまったのだった。

    「お前ら強いのな。約束通りもう占拠とかはやめるよ。」

    そう言い残して6年生軍団は帰って行った。
    残された4年生達は勝利を噛み締めながら盛りあがっていた。

    「やったね、京ちゃん!さすがだね!!」
    「ほとんど京ちゃんの得点だよ。」

    京介はずっと試合を見守っていた仲間達に囲まれていた。

    「ん?でもね……」

    京介は取り囲む友達をかき分け、駿の方へ向かって行った。

    「僕がゴール出来たのは駿君のパスのおかげだよ。すっごい楽しかった!」

    ありがとう、と京介は右手を差し出した。
    こっちこそありがとう、駿はすぐにその手を取り、二人の間に握手が交わされた。
    これが京介と駿に友情が芽生え始めた瞬間であった。

    それ以来、度々二人が一緒に遊んでいる光景が見られた。
    そこでも二人のコンビネーションは見事なものであった。

    一ヶ月後、京介と駿が5年生になった時のクラス替えでは……

    「あ、駿君!同じクラスだね!!」
    「京介君!よろしくね!!」


    +        +        +

    「懐かしいよなー。」
    「何が?」

    小学生時代のアルバムを見ながら呟いた京介の手元を除いた駿はそこにあるものを見て納得した。 そのアルバムには二人で仲良く写っている写真が多数収められていた。

    今日は日曜日。部活は珍しくオフだったので、駿は京介の家に遊びに来ていた。
    駿が京介の部屋に来た時、京介は何故かアルバムを広げていたので、 それからずっと二人でアルバム鑑賞会が続けられていた。

    「なんか飽きて来たなー。……駿!外行こうぜ外!!」
    「は?」

    ベッドに寝転がってずっと大人しくアルバムを見ていた京介は、突然がばっと起き上がり騒ぎ始めた。

    「そこのわかば公園にサッカーしに行こう!」
    「外はかなり寒いぞ?」
    「なに年寄りくさいこと言ってんだよ。運動すれば暖かくなるって。ホレ行くぞ。」

    ボールを持って立ちあがった京介はさっさと部屋を出て行ってしまった。

    「仕方ねぇな。」

    駿も続いて部屋を出ていった。

    これから向かう『わかば公園』は二人が初めて会った場所。
    そして、今日は京介と駿が出会って丁度8年目の記念日だった。

    しかし、誰もそんなことは覚えていないだろう。

    ―――― 今、自分達は共にここにいる。それだけで十分だろう。