これからはじめるCFD
BOY'S GAME

  • 登場人物が多いので、簡単な人物紹介ウィンドウを用意してみました。⇒ぽちっとな

    校則改革!・後編
    次の日の昼休み、4人は生徒会室に集合していた。
    放課後は全員部活動があるので、今日は昼食を食べながらぼちぼち話しを進めることにしたのだ。

    「20年ぐらい前にも生徒による校則の変更を求める動きがあったみたいだな。」
    手もとの資料を見ながら眞輝がつぶやいた。
    昨日の放課後に眞輝が校則の改訂について調べ、まとめた資料である。

    「で、結果は?」
    お弁当のハンバーグにフォークを刺しながら京介が尋ねる。
    「認められたよ。昔は鞄が指定されていたらしいな。それを自由にしたんだ。」

    「承認までの流れは?」
    海斗は手もとのミネラルウォーター入りのペットボトルの蓋を開けた。
    「話があがったのは今と同じぐらいの時期。生徒総会も終わった後だったから、プリントで全校生徒に改訂案を提起して、承認を得る。全校生徒の3分の2以上の可決を得て、正式に学校側に提出。というかんじかな。」
    「学校側に提出する時には統計資料も付けておくか。」
    海斗は食べ終わったお弁当箱の蓋を閉じて、横によけた。
    そして、ノータイと体感温度についての関係を示した資料を手にした。
    これは海斗が昨日独自に調べた資料である。

    「とにかく、動くなら早い方がいい。駿、明日中に改定案提起のプリント仕上がるか?」
    「任せろ。」
    「明日、平松っちゃんに印刷するよう頼んでおくから。」
    平松圭太は26歳独身、数学教師。生徒会の顧問である。
    眞輝は続けて指示を出した。
    「原稿が出来次第提出。そして明後日の放課後全校の学級委員を召集、緊急会議を開く。3日後の金曜6時間目のHRを使って全校生徒に改定案提起。HR使用許可はもう得てある。」
    「さっすが。」
    眞輝の仕事の早さに感心した駿はパンパンッと拍手をした。

    「次に集まるのは……一応緊急会議前の昼休みに打ち合わせしておくか。木曜の昼にココで。」
    以上今日はもう解散、と付け加えて眞輝は席を立った。

    おつかれ〜、とそれぞれが生徒会室を出て教室へ戻ろうとする中、京介は一つ気になることがあった。
    「(俺、何もすることない……?)」
    京介はちょっと淋しくなった。


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    その後の作業はトントン拍子に進んでいく……はずだったのだが、
    木曜の緊急会議の後、生徒会室で眞輝が予定外のことを言い出した。
    「俺、明日のHRでちょっとやりたいことがあるんだけど。」

    今更何を言っているのだコイツは。
    眞輝を除く全員がそう思った。

    「まぁとりあえず言ってみろ。」
    海斗が話を促す。
    「いやぁ、さっき会議中に思いついたんだけど、明日の正午に気温が夏日を越えたらさ……」
    眞輝は自分の計画について話始めた。
    会議中にそんなことを考える余裕が一体どこにあったのだろうか。謎だ。

    「間に合うか?」
    計画を聞き終えた駿は腕を組んでギシっとパイプ椅子の背もたれに寄り掛かった。
    「間に合わせるさ。」
    「平松っちゃん、怒るぞ?」
    と言いつつも京介はちょっとニヤリと笑った。
    「もう怒られた。どうせお前らなら許してくれると思ってさ、会議の後にすぐ頼みに行ったよ。そしたら『なんでもっと早く言わないんだ!』って言われたよ。さっき思いついたって言ったら、呆れてたみたいだけど。」
    それでも協力してくれるんだから良い顧問だよな〜ハハッ、と眞輝はのんきに言った。

    「俺達も呆れたよ。」
    「そうか。でもそう言いつつ許してくれるだろ?」
    そうしてニッコリ微笑んだ。
    「……。」
    眞輝の笑顔に誰も反論できる者は居なかった。いつもこの笑顔にゴリ押されるのだ。
    コイツは間違いなくこの学校の先頭に立つ人間だ。誰もがそう思った。


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    キーンコーンカーンコーン

    午後2時30分、チャイムと同時に6時間目の開始である。
    今日は金曜日。例の改定案提起をするHRの時間だ。
    現在の気温は26℃、計画実行可能な気温。

    各クラスにプリントが配られたであろう時間を見計らって、教室の壁にあるスピーカーから放送が流れた。
    『どうも。生徒会長の宮川です。配られたプリントについての説明は学級委員からされたと思いますのでこちらからはしません。それで、突然ですが今から十分後に簡単な実力テストを行います。制限時間は30分。マークシート形式ですが、真面目に解け。あ、いや解いて下さい。』
    恐らくこの時点で各教室では生徒のブーイングが起こっていることだろう。
    放送室に居る眞輝にも容易に想像できる。

    『また、実力テスト実施にあたりお願いがいくつかあります。教室のドアと窓は全て閉めきってください。そして、各学年の奇数クラスの生徒はネクタイを外し、偶数クラスはネクタイをきっちり締めてテストに臨んで下さい。突然のことなので疑問や文句はあるでしょうが、これがこれからの学校生活に潤いをもたらすためのものなので、協力よろしくお願いします。では、学級委員はテスト開始までに承認否認を書いた紙を回収して、放課後生徒会室まで持ってきて下さい。連絡は以上です。では担任の先生方、十分後に問題用紙とマークシートの配布よろしくお願いします。』
    プツッとそこで放送は切られた。

    「さて、どうなるでしょうね。」
    放送室で放送用マイクを前にして座って居た眞輝は椅子をくるっとまわして、傍らに立つ平松に目を向けた。
    「まったく、唐突すぎるんだよ。『明日、簡単な実力テストをしたいので問題を用意して下さい。』なんてさ。」
    今日のために用意されたテストは教科に関係ない総合問題である。
    もちろん問題は学年別なので平松の仕事は3倍だった。
    「どうしてもうちの生徒で統計を取りたかったんですよ。感謝してますって先生。」
    椅子から立ち上がった眞輝はポンっと平松の肩を叩いた。
    「今度なんか奢れよ。」
    「先生、ソレ生徒に言うセリフじゃないでしょう。」
    眞輝は妙に大人びているところがある。
    この二人を見ていると教師と生徒である関係を忘れてしまいそうだ。

    「宮川は教室に戻るのか?」
    「俺はここに残りますよ。テスト開始と終了の合図とその後のアナウンスも残ってるんで。ココで時間潰しますよ。先生は?」
    「俺は職員室で仕事だ。お前らのお陰で仕事が溜まってるんだよ。教室の方は小上と葵に任せてあるしな。」
    そう平松は京介と駿の担任なのである。
    じゃあな、と言って平松は放送室を出ていった。
    「ご苦労様でーす。」
    眞輝は平松の背中に向かってひらひらと手を振った。

    「さて、何をして時間を潰すかな……。」
    一人放送室に残った眞輝はボソっと呟いた。

    放課後、生徒会室では全校生徒分の承認否認投票の集計が行われていた。
    全校生徒およそ1200人分をたった4人で集計するともなればやはり時間がかかる。

    集計が終わったのは午後18時を過ぎてからであった。
    「出席人数1182人中、承認1170票、否認11票、両方に丸が付けてあって無効は1票。
    全校生徒の3分の2の承認を得たので、学校側に正式に改訂要求書を提出、と。」
    「よっしゃ!」
    京介は立ち上がってガッツポーズをした。

    1週間後、急がせた甲斐あって実力テストの結果は予定より早く出た。
    毎日毎日顧問に、平松っちゃん結果まだ〜と言いつづけた努力の賜物である。
    お陰で平松の仕事がまた少し溜まってしまったのだが。

    実力テストの結果は、一目瞭然。
    奇数クラスと偶数クラスの平均点は10点も違っていた。
    勿論ノータイで挑んだ奇数クラスの点数の方が上だ。
    実際にネクタイのありとなしでは体感温度が2℃も違うこともわかっている。
    そのため多少涼しい環境でテストを受けた方が集中力が高まっていたのである。

    この統計結果と生徒の投票結果、それに海斗の集めた資料を添えて学校側に要求書を提出した。

    3ヶ月後、職員会議を経て校則改訂案「夏季のノータイを認める。」はめでたく承認された。
    来年度から施行されることになる。

    ここで京介にとって、ちょっと予定外なことが起こったのである。
    「え、何?!今年からなんじゃないの?」
    「それは無理だろ。即日施行なんて普通に考えてありえないことぐらいわかるだろう。生徒手帳の書きかえとか必要な手続きがあるんだよ。」
    普通に考えてわかることが、京介にはわからなかった。
    そのことがちょっとショックだったみたいだ。

    「おい、お前ら今暇か?」
    ガラっと勢い良く戸を開けて生徒会室に入ってきたのは、顧問の平松である。
    「まぁ、暇じゃないこともないですけど……。すっごい嫌な予感がするのは俺の気のせいですかね?」
    「いや〜気のせいじゃないかもしれないぞ。」
    眞輝の質問に答えて、平松は手近な長机に書類の山をどかっと乗せた。

    「一体コレはなんなんスか?」
    書類の山を指差して駿はおそるおそる訊いてみた。
    「手伝え。」
    平松はニッコリと有無を言わさぬ笑みを浮かべて言った。
    そして続けて喋り出した。
    「まったく誰のせいでこんなに仕事が溜まったと思ってるんだよ。それもこれも全部お前らの我侭要求に付き合ってきたからだろー。少しは俺の我侭にも付き合え。」
    「先生、だからソレ教師の言うべきことじゃ……」
    「手伝え。」
    「はい。」
    あの眞輝でさえも素直に従わせる人間がここに居た。

    ある意味最強。

    平松だけは本気で怒らせてはいけない、そう思った生徒会の4人であった。




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