これからはじめるCFD
BOY'S GAME

  • 登場人物が多いので、簡単な人物紹介ウィンドウを用意してみました。⇒ぽちっとな

    猿を追え!
    『昨日、西区の住宅より猿が一匹脱走しました。』
    朝のニュース番組で、スーツを着た30代前半と思われるアナウンサーの男性が淡々と原稿を読み上げている。

    『飼い主は猿に献賞金を賭けて、捕獲した人に50万円を支払うと公表しました。猿の名前は"ミルキー"。オス、2歳8ヶ月で、サファイアのついた特注首輪をつけているということです。警察も…』
    画面が切り変わり警察が網を持って追い掛けている様子を撮影した映像が流れる。
    木から木へと飛び移ったり、楽々塀を越える猿。それと猿にあっさり撒かれる警察。
    とにかく猿はすばしっこく、捕獲するにはかなり時間がかかるだろう。

    そんなニュースを見つつ朝食をとっているのは小上家の人々。
    「あ、醤油取って。」「はい。」「サンキュー」など、何気無い会話をしつつなんとも平和な光景だ。

    「俺、今日の帰り遅くなるから。」
    朝食の鮭の身をほぐしつつ口を開いた少年、小上家次男である京介は高校二年生。
    少し頼りなさそうな顔立ちに寝癖のついた髪の毛が彼のトレードマークである。
    「あら委員会か何か?」
    母、英子は湯飲みにお茶を注ぎながら訪ねた。
    「部活。試合近いんだよ。」
    京介はサッカー部だ。普通より肌が日に焼けているのもそのせいである。

    英子が『委員会?』と尋ねたのは、京介が生徒会の副会長をしているためである。
    数ヶ月前の選挙で本人の願い虚しく当選してしまい、一応努めてはいる。
    役に立っているのかどうかはまた別の話であるが。

    「そう。気を付けて帰ってくるのよ。」
    「だいじょーぶだって。」
    そう言いつつちらっと壁の時計に目をやると針は“6:50”を指していた。
    そろそろ家を出なくては朝練に間に合わない。
    「俺、出る。」
    お碗に残っていた味噌汁を急いで口の中に流し入れ、せわしなく椅子から立ち上がる。
    そしてダイニングからリビングに移り、ソファーに置いてあったスポーツバッグを手に取り玄関へ向かう。

    「行ってきます!」
    「はい、行ってらっしゃい。」
    英子に見送られて家を出る。

    駅までは徒歩8分。学校の最寄り駅まではJRで12分。そこから学校までは徒歩3分。
    なんとか7:20から開始の朝練には間に合うだろう。ギリギリセーフだが。
    (全速力で走っていけば58分のJRに乗れるかな?)


    +        +        +


    キーンコーンカーンコーン
    昼食の時間を知らせる鐘が東堂学園校内に響き渡る。

    2−Cの教室の窓際後方の席には数人の少年たちが机を囲っていた。
    開け放たれた窓から入りこむ風が心地良い。

    「さぁ、昼メシだ!」
    京介はウキウキしながら机の上に弁当箱とバナナ2本を乗せる。
    「お前、休み時間と昼メシの時間だけ元気になるなよ。」
    呆れたように京介を見たのは、相方の葵駿。
    小学校時代に京介と出会って以来ずっと同じ学校に通い、今や部活も生徒会に所属しているのも同じのため相方も同然だ。ちなみに彼は生徒会書記である。
    また回りより少し背が高く、色素が薄く少し癖のある髪の毛が良く似合っている。

    「いいじゃねーか。メシの時間に暗くなるよりずっとマシだろ?」
    「そうだけどさ……。」
    確かに、食事の時間に重い空気を持ち込まれるのは遠慮したい。
    (でも授業中ほとんど寝てるっつーのは問題あるだろう。ま、俺に被害がなけりゃいいけどな。)
    駿はこういう考え方の人間である。自分に被害が及ばない限り、京介の行動に関しては放置プレイ。

    「なあ、今朝のニュース見たか?」
    京介の前の席で椅子を通路側に向けて座っていた友人、冴原慧はフォークを京介の方に向けて喋り出した。
    「なんのニュース?」
    「あれ、猿が逃げ出したやつ。」
    「見た見た。うちの区内で逃げ出したんだろ?この辺に居そうな気がするんだけど。」
    会話に混ざってきたのは友人、河合明人。お弁当とペットボトルのお茶を手に、慧の隣の席に突然移動してきた。

    「捕まえただけで、50万貰えるんだろ?俺、放課後探してみようと思ってるんだ。」
    「俺も思ってた。一緒に探すかー。」
    猿捕獲大作戦の相談を始めてしまった慧と明人。
    そうはいっても、今こうしている間に警察は捕獲に全力を注いでいるし、一般の人々も50万のために血眼になって猿捜索に死力を尽くしているだろう。捕まるのも時間の問題だ。
    しかし、そういうことに彼らは気付いていない。もう、自分たちが猿を捕まえることしか頭になかった。

    京介は話に耳を傾けつつ空になったお弁当箱を片付け始めた。
    そして、デザートにと取っておいたバナナを手にしようとして気付いた。
    「あ、あれ?」
    「どうした?」
    異変に気付いた駿が京介に何事かと尋ねる。
    「バナナが足りない……。」
    先程まで机の上にはバナナが2本あったはずだ。それが1本しかない。どういうことだ?
    (誰かに獲られたか?いや、ずっと窓側に置いてあったけど誰も来なかったし……。)

    「ウキッ?」
    京介が悶々とバナナの行方を考えていると、急に人間のものとは思えない声が聞こえた。
    声のした方を見て、一同一斉には叫ぶ。
    「バナナ!」
    「猿!!」
    「50万!!!」
    叫んでいる事はバラバラだが、対象物は同じである。
    対象物。それは窓枠に座りバナナを食べている、猿。首にはサファイアのついた首輪。間違いなくニュースで騒がれ、先程話題にも上っていた猿である。

    「キキーッ!」
    鋭い眼光に睨まれた猿は驚いて、京介の頭を飛び越えて廊下に逃げ出してしまった。
    「俺のバナナ返せ!」
    「逃がすか50万!!」
    京介、慧、明人の3人は猿を追って教室を飛び出した。

    「適当に頑張れ。」
    その場に残された駿は1人で平和なランチタイムを続行した。

    廊下を駆け抜ける猿。それを追う少年3人組。
    体育会系の部活に現役で所属している京介が3馬身リードといったところか。
    「コラ猿!バナナ返せ!!」
    「ウキーッ」
    バナナなど既に胃袋の中だ。猿が普通に4つ足をついて逃げている時点で気付いてもよさそうなものだが、そんなことを考える余裕など今の京介にはなかった。

    「あ。京介丁度良い所に……。」
    廊下の向こうから歩いてきた上原海斗に話しかけられたが、今はそれどころではなかった。
    「悪い!猿のバナナが取った俺!!」
    などイミフメイな事を叫びつつ、風の如く横を走り去った。
    「……は?」



    「そういうことか。」
    「悪い……意味わからなくて。」
    「駿が謝るなよ。」
    京介が脇を過ぎ去ったあと、海斗は2-Cの教室に立ち寄っていた。
    プリントを渡すためだ。
    駿に渡しておけば、彼が京介にも渡してくれるだろう。

    駿はついでに京介が猿を追っている理由も説明していた。
    (アイツ……まだ追いかけてたのか。そろそろ飽きて戻ってくる頃だと思うんだけどな。)

    そして視界の端に人影を捉える。とぼとぼと開いたままの教室後方のドアから京介は肩を落とし帰って来た。
    「ただいま。逃げられた。」
    予想的中、さすがは相方。
    「おかえり。ご苦労様。あれだけ必死に追いかけてたのにな。」
    「バナナの一本ぐらいくれてやれば?」
    まったく自分のバナナをなんだと思っているのだ。
    (俺の努力をねぎらってくれるのは海斗ぐらいなんだ。)

    今の京介にとっては50万円よりも何よりもバナナの方が重要なことであった。
    仮に猿に取られたものが、柿の種や枝豆一粒であったとしても全力で追いかけまわしただろう。
    しかし、あれだけしつこく、尚且つ必死に追いかけられたら無条件で土下座をしたくなるような気持ちになるだろう。
    それは、相手が人であれば、の話だが。残念ながら今回は猿だ。『アイツなんでこんなに追かけまわすんだウキ?』ぐらいにしか思われない。

    「俺は、あの猿を野放しにはしておきたくない!」
    「じゃあ罠でも張って捕まえれば?」
    駿の意外な一言。海斗はおいおい、という目で駿を見た。
    それとは反対に京介の目はキラキラと輝きだした。
    「そうか。そうだ!俺いいこと考えた。駿サンキュー。ちょっとまた行ってくる!」
    そして、机の上にあった最後のマイバナナを手に、再び教室を飛び出してしまった。
    その時丁度帰還した慧と明人に遭遇。
    「俺、いいこと思いついたんだって。」
    「は、お前の思いつきとかアテにならんだろう?」
    「いいからついて来いって。」
    「おい、ネクタイ引っ張るなって。コラ。首締まってるっ!!」
    強制連行決定。慧と明人は京介の思いつきに付き合わされることになった。

    「いいのか?放っておいて。」
    一部始終を傍観していた海斗は傍らの駿に訊いてみる。
    「いいんじゃないか?5限目までは時間あるし。」
    (そういう意味じゃなんだけどな)
    海斗は心の中で密かにそう思った。

    「それに退屈しなさそうだ。」
    すっと窓の側に寄って下を見た駿に続いて、海斗も外を見下ろしてみた。
    すると、下の中庭に大きなカゴとバナナを持って少年3人が現れた。
    間違いなく京介たちだ。

    この後の彼らの行動は決まっている。
    まずバナナを置いた上にカゴを逆さにセットし、その端に紐のついた棒を引っ掛けるだけ。
    バナナを引っ張るとカゴが落ちる寸法だ。なんという古典的方法。今時の幼稚園児でももっとましな方法を考えるだろう。
    むしろちょっと頭が良く、本来なら幼稚園に通うぐらい年齢なのに飛び級でハーバード大学に合格しちゃうようなお子様に『これからの日本を背負って立つ人がそんな幼稚なこと考えるなんて……先の日本が思いやられますね。』なんてため息をつきつつ言われるに違いない。

    そんな今時誰もが使わないような作戦に真剣に取り組んでいるのは京介オンリー。
    他の二人からは“帰りたいオーラ”がにじみ出ている。
    3階の窓から見物している駿たちにもわかるぐらい、はっきりと。

    「これじゃ、まずかからないだろうな。」
    「その方が楽しいだろう?よっぽどの事がない限り俺はアイツにまともな案は授けないさ。だから今回は“罠”というヒントしか言わなかった。ま、どれだけ楽しませてくれるか見モノだな。」
    「……。」
    思わず絶句。京介は間違い無く駿のおもちゃと化している、と海斗は思った。

    そんなこんなで猿がついにやってきた。様子をうかがいつつゆっくりとバナナに近づく。
    回りで見守っていた生徒たちもばかばかしいとは思いつつ、思わず息を飲んでしまう。
    (え?!)
    猿がバナナに触れようとした。まさか作戦成功?!そんな馬鹿な。あれだけ警察も巻き込んでおいて、こんな単純明快な罠で事件解決?
    ギャラリーは揃って一瞬そう思ったが、猿は途中で手を止めカゴを支えてあった棒をなぎ倒した。
    パサッと音をたて無情にもカゴは猿を捕らえることなく、バナナの上に被さった。
    そして、あろうことか猿はカゴをどけてバナナだけを取りだし、皮をむいて食べ始めた。

    「最近の猿は本当に賢いな。京介以上かもしれない。」
    一部始終を見届けた駿は真剣にこんな感想を漏らした。
    (ああっ!それは言っちゃいけないことだ。たとえそう思っていたとしても……。)
    (確かに猿にいいようにもてあそばれているけど。)
    (罠とか超簡単に見破られたうえに、無力化されてるけど……。でも、)
    「さすがに猿以下ってことはないだろう。ハハハ。」
    海斗ナイスフォロー。のつもり。

    窓の外を見下ろすと再び猿を追かけまわす京介の姿。
    「そろそろ5限目始まるから戻ってこいよ。」
    冷静に駿は京介に声をかけた。

    「俺も戻らなきゃいけないかな。」
    「あ、コレサンキューな。」
    「ああ。」
    プリントを持ち上げてお礼を言う駿に海斗は返した。

    2-Dに戻る時海斗は思うことがあった。
    (あの二人はアレで友情と信頼が成り立っているから不思議だ。)
    確かに。


    +        +        +


    5間目京介は何やら真剣に考えていた。
    いつもなら昼食の後には気持ち良く睡眠をして、先生に教科書の角で頭を叩かれ、反省しているかのように見せかけの謝罪をし、また眠りモードに入るはずの京介が起きている。真剣な目をして何やら必死にノートを取っている、ように見える。
    前で教科書片手に解説していた世界史教師も、京介が真面目に授業を受けている事に動揺を隠せなかった。
    (何故小上が起きている?)
    それが当然であるはずなのに、疑問に思ってしまう。
    (ついに心を入れ換えて授業に専念する気になったのか?俺は嬉しい。)
    残念ながら、世界史教師の期待とは180度逆の方向に京介の集中力は向けられている。

    (えっと、フォーメーションBが……。)
    京介が考えているのは猿捕獲大作戦案。
    メンバーは自分と慧と明人と駿。勿論駿に了解は得ていない。こんなことを話せば後から中傷をくらうこと必至。
    しかも作戦内容『猿を見つけたら走る。』以上だ。作戦も何もあったものではない。

    作戦はどうあれ、フォーメーションは結構真面目に考えているようである。
    ずっとルーズリーフに記しているようだが、象の落書きにしか見えない。絵心ゼロ。
    これでは後から思い出せないではないか。彼が今の時間が無駄になったと知るのは何時間後だろう。
    (フォーメーションCが……。)

    ドンガラガシャーン、ギャー、ウォー、ウキーーッ、ワハハ!

    次の案にとりかかろうとした時、どこかのクラスから盛大な音が聞こえてきた。
    音に統一性がないので、一体何が起こったのかわからない。わかるのは何かが倒れた音と猿の鳴き声。

    「ウキウキウッキー!」
    鳴き声がこちらへ近づいてくる。それと共に人間の足音らしき音も近づいてきた。

    サッっと茶色い物体が2-Cの教室に飛びこんできた。くだんの猿だ。教卓の上に乗って顔をこすっている。
    だが、昼休みと何かが違う。なんだ?どこが違う?そういえば心なしかさっきより頭がフサフサしているような。猿ってあんなに髪の毛あったか?
    2-Cの生徒たちがそんな疑問にかられている時、更に人影が飛びこんできた。
    「こら猿、大人しくこっちへ来なさい。」
    56歳、教師一筋30年の教頭だ。教頭なのだが……いつもと違って、なんというか、頭に輝きが増している。当社比40%増だ。

    これでわかった。猿の頭がフサフサしていたのは、教頭のカツラを被っていたから。
    先程の盛大な音は猿が教頭が授業をしていたクラスに乱入したために起こったもので、てんやわんやしている隙に教頭のカツラを猿が取って逃げた、と。そういうことだ。

    「き、教頭?その頭は……。」
    2-Cで授業を行っていた教師も目が点。
    「はっ!」
    教頭は思わず頭を押さえたが、もう既に遅し。ばっちり生徒たちの目に触れてしまった。
    「ぎゃははは、教頭!いいッスよ。」
    「もう、オープンでいきましょうよ。カミングアウト!」
    ぶわっはっはっは!!
    教室は笑いの渦に巻き込まれた。とにかく笑うしかない。前から教頭ズラ説は密かに囁かれていたが、まさか本当だったとは。

    当の猿は教室内を逃げ回っている。教頭は手のつけようがなく、ただ猿の動きを目で追っている。
    一通り笑い終えた生徒たちは携帯のカメラで神々しく輝く教頭の撮影会を開催中。今度の校内新聞はこれで決まりだ。教頭は見事にすっぱ抜かれてしまった。

    暴れに暴れて教室を荒らした猿は、カツラを教卓の上に落として、窓から逃げていった。
    教室は物が散乱し、ひどい有り様だった。
    「教頭、どうぞ。」
    すかさずカツラを教頭に差し出す世界史教師。
    「ああ、ありがとう。」
    受け取って適当に頭に乗せる教頭。本来前にくる位置が右を向いている。本当に適当すぎる。応急処置にもなってない。
    そして、フラフラと2-Cの教室を出ていった。

    その後授業を再開できるはずもなく、掃除の時間となった。
    ラッキーなんだかアンラッキーなんだか微妙。もちろん某手品師のペットの名前のことではない。

    「どうしたら猿捕獲できるんだろうな……。」
    モップの柄の先に顎をのせて京介は呟いた。
    「もう諦めれば?」
    背後で机を動かしていた駿が吐き捨てるように言った。
    「い・や・だ。」
    「どうしてそこまでこだわるんだ?」
    「うーん、男の意地ってやつ?」
    「あ、そう。」
    駿はたいして興味がないように反応した。その代わり心の中で感想を呟いた。
    (その意地は……明らかに使うところを間違えているだろう。)




    6限目は通常通り行われた。この時間にはどこのクラスでも騒ぎは起きなかったようだ。
    一体猿はどこへ行ってしまったのだろうか?

    「もう学校の敷地内にはいないのかなぁ?」
    放課後、玄関で靴を履き替えている時にふと思ったことを京介は口にしてみた。
    「いないんじゃないか?」
    「お前ならそう言うと思ってた。」
    「ご期待にそえたようで光栄だよ。」
    そんな会話を駿として、外にある部室に行こうとしたところで眞輝に会った。

    宮川眞輝。今期の生徒会長である。
    肩につくかつかないかの長さの髪の毛。少しタレ気味の目が優しげな印象を与える。

    「眞輝い……」
    今帰り?と訊こうとして、気付いた。
    眞輝の腕のなかで眠っている、猿に。

    「あ、あ、あ、そいつ、その猿!!」
    京介は指をさして叫んだ。
    「コイツ?6限目の途中で教室に入ってきてさ、いきなり俺のところに飛びこんできたんだ。それからずっと膝の上で眠ってて。今から飼い主に届けに行く所。っていっても俺の家の隣なんだけどな。ミルキー、ってコイツの名前なんだけどさ、すっごい俺に懐いてくれてるんだよ。ミルキーが生まれた時から遊んでたからさ。」
    眞輝は微笑んだ。

    あれだけ自分が捕獲に苦労していた猿がわざわざ向こうから飛びこんできただと?しかもそのまま何も警戒せずに居眠りをこいている。
    (俺の苦労って一体……。)
    京介は全身の力が抜けるような感覚をおぼえた。

    「ふーん。ご苦労様。」
    「そっちは部活か?関東大会間近なんだろ。大変だな。」
    「まあね。」
    暗い表情で地面を見つめてボケっとしてる京介の横で、眞輝と駿は世間話をしている。

    「じゃあ俺帰るわ。早く届けてやりたいしさ。飼い主すっごい心配してて、昨日の夜寝てないらしいし。」
    軽く手を上げて眞輝は校門を出ていった。

    「京介、何ヘコんでんの?」
    駿は隣でグレーのオーラを放出させている京介に声をかける。
    「いや、なんでもないさ。」
    「だいたいわかってるけどさ。」
    「だったら訊くなよ……。」

    こうしてあっけなく事件に幕は下ろされた。


    +        +        +


    後日、会議をしようと役員が集まっていた生徒会室に、怪しげな機械が多数搬入されてきた。

    「これは……どうしたんだ?」
    搬入の様子を見物し終えた海斗は、搬送屋に機械を置く場所を指示していた眞輝に説明を求めた。
    「ミルキーの懸賞金で買ったのさ。俺は飼い主に『受け取れない』って断わったんだけどさ、どうしてもって言われて。もともと受け取る気のなかった金だからな、どうせならみんなの役に立てようと思ってさ。」
    役に立てるも何も、誰がいつどこでこんな機械を使うのだろう。そう、眞輝以外の誰もが思った。

    「そのうち他にも機械が届くから。オーダーメイドだから時間がかかってるんだ。」
    まだあるのかよっ!またしても眞輝以外の誰もがそう思い、ツッコんだ。
    しかもオーダーメイドだ。一体どんな機械が届くのだろう?

    みんなの役に立てると言いつつも、結局それを役立てることができるのは眞輝オンリーなのではないか?と思いつつも本人には言えない京介・駿・海斗の3人であった。





    しかし、この機械がまさか全校の役に立つ時が来るとは誰も思いもしなかっただろう。全く。これっぽっちも。
    まあ、それはまた別のお話。




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