これからはじめるCFD
夏が終わる前に



04. 友情恋愛



「あのね、さっき『好き』って伝えてきたんだ」
「うん」
「でもね、私とは付き合えないって言われちゃった」
「……そっか」
「失恋って、けっこう辛いね」
「瀬戸、あのさ……」
「何?三宅くん」
「そんなにアイツのことが好きだったわけ?」
「うん。なんか一生懸命ボール追いかけてる姿とかものすごいキラキラしててさ。気付いたら目が離せなくなってた。めちゃくちゃ好きだったんだよ。……やだな、涙出てきた」
「瀬戸!あのさ、お、俺じゃダメか?」
「三宅くん?」
「俺にしとけよ!あいつなんかより、俺のほうが瀬戸のこと大切にできるよ!」
「えっと、あの……」
「俺は瀬戸が好きなんだよ!」
「三宅くん……でも、私、やっぱりレオナルドくんのことが忘れられないの!ごめんなさい!」
「待ってくれ瀬戸!」


*    *    *


「っていう夢を見たよ」
「コラ英志」
「ちょっと古賀くん」
ある日のお昼休み。
古賀くんが随分楽しそうに、聞いて!なんていうからどんな話かと思えば、古賀くんが昨夜見たリアルなんだかそうじゃないんだかよくわからない夢の話をウキウキで語ってくれた。
「なに二人とも。そんな恐い顔しないでよね。たかが夢の話でしょ」
三宅くんに至っては今にも古賀くんに掴みかかりそうな顔をしている。
「勝手に人のこと失恋させないでくれない?」
「俺もいつのまにか失恋してんだけど。瀬戸に」
「それは私のせいじゃないでしょ?!」
三宅くんが私のほうを見るので、慌てて弁解をする。
そんなこと言われても古賀くんの夢の中の話であって、私のせいではない。
「ってか、レオナルドくんって誰なの?」
「俺が知るわけないよ。瀬戸ちゃんの好きな人なんか」
「いや、古賀くんの夢の中で私が好きな人でしょ」
「ボール追いかけるって言ってたから、球技系の部活に入ってる奴だろ?」
「少なくとも野球部にはいないよ」
「それ以前にウチの学校にいないでしょ。明かに純日本人じゃないよ」
そんな珍しい生徒がいたら間違いなく校内における知名度はかなり高いはずだ。
「じゃあ、他校か?」
「すごいね瀬戸ちゃん。他校の生徒までチェックしてるなんて」
「いや、99%架空の人物でしょう」
そんな得体知れない人物に勝手に恋をさせないで欲しい。
「レオナルドより浩紀の方が全然いいよ!背高いし、野球は上手いし、顔は……見方によってはイケメンだし、成績はあんまり良くなくて、セクハラ発言多いのがちょっとネックだけど、俺的にオススメ」
「それ、あんまりオススメされてなくね?」
「俺流テクニックだよ。誉めて誉めて貶す、みたいな」
「一番ダメなパターンじゃん」
「あっはははは!さすがは古賀流テクニック」
落としてから最後に持ち上げるのが普通なのに、あえてその逆。
オススメする気が皆無なのは私にもよくわかった。
「っつーか、テクニックなら俺の方がすげーよ?」
「あえて聞くけど、なんのテクニック?教えて三宅くん!」
「そうやって普通に聞かれるのが一番困るよな」
「ボケ潰しならぬエロ潰し。すごい技だね、瀬戸ちゃん」
まあ三宅くんが一体どんなテクニックを指しているかは言わずもがな。

「あのさ、話変わるけど俺最近考えることがあってさ」
「なに、英志?」
「古賀くん?」
急に古賀くんが真面目に話し出すから、私も三宅くんもびっくりして思わず背筋がピンと伸びた。
「普通さ、こうして男二人と女の子一人と仲良くしてたらさ、男二人が女の子取り合ってドロドロな展開になるもんじゃないの?」
「古賀くん、それって私が女の子としての魅力不足だっていう……」
「そうは言ってないでしょ。瀬戸ちゃんだって十分可愛いよ。ご飯食べてる時とか」
それはどういう意味だろうか、古賀くん。
「英志、漫画の読み過ぎなんじゃないの?もしくは昼ドラの見すぎ」
「昼ドラの方かな。男二人と女の子一人の幼馴染三人組の愛憎劇」
「確実にそれが原因だろ」
あれは私も見ていた。
というか、パートで見れない母親がわざわざ録画をしていたのでなんとなく一緒に見ていた。
きっと古賀くんも同じパターンなのだろう。

「あれさ、片方の男が女の子のこと好きだってもう一人に宣言するじゃん?」
あの昼ドラはそこからドロドロな展開に様変わりした。
「そうなの?俺見てないからわかんねーけど」
「うん。A男がB男に『俺はC子が好きだ』って宣言して、B男もC子がずっと好きだったけどそれは言えなくて、色々事件が起こりすぎて三人の関係はぐっちゃぐちゃのドロッドロ。友情も愛も恋もなかったね。話がぶっ飛びすぎてコントかと思うようなシーンもあったけど」
「ふーん。そうなんだ。ってかコントって」
私が三宅くんにドラマの内容をかいつまんで説明すると、なんとなく理解はしてくれたようだ。
「本当にコントみたいだったんだよ。わざとらしくて笑いを誘うみたいな。で、何の話だっけ古賀くん?」
「えっとー、だからさ、俺だったら相手に宣言なんかしないで、好きだっていうのは絶対に秘密にしてるかなぁ。そんで、あらゆる手をつくした上で、時期が来たら一気に奪っちゃうけどな、って話。そもそもカップル成立前だから付け入る隙が出来るんだよ。だから完璧にモノにしちゃえば昼ドラとは無縁でしょ。っていうか、そもそも俺、本当に欲しいものは欲しいって他の人に言えないんだ」
古賀くんは、うわー、俺語っちゃった、なんて笑ってたけど、私も三宅くんも思わずポカンとしてしまった。
「浩紀も瀬戸ちゃんも変な顔」
「いや、まさか英志の口からそんな真面目な恋愛論が聞けるとは思ってなくて」
「同じく……」
「失礼だね。俺だって人の子なんだから人並みに恋愛するよ」
それはそうだろうが、あまりにも予想外な展開すぎる。
ここで古賀くんからこんな話が飛び出るなんて思わなかった。けれど、
「一気に奪えなかったらどうするの?それこそ昼ドラ的ドロドロ三角関係に?」
「奪うよ」
「すげー自信。まぁ、俺にはできない芸当だな」
「どっちの意味で?」
「隠し通す方の意味で」
「浩紀、全部顔に出るもんね」
「そうそう。嘘の付けないタイプだから。隠してもすぐバレる」
「だから浩紀はムッツリじゃなくてオープンなエロなんだね」
「そうそう。だから自然とエロが前面に押し出されて、って違うだろ!」
「ナイスノリツッコミだよ浩紀」
うーん。お見事。などと感心してしまった。
二人は野球部を辞めて漫才コンビを組めばいいと思う。
でも二人とも野球は上手だから辞めたら勿体無いか。
とか二人の将来について勝手に考えてたら、バチッと古賀くんと目が会った。
「瀬戸ちゃんは?」
「え?」
「顔に出るタイプ?」
「あー、どうだろう……」
「瀬戸の場合、自覚するまでに時間がかかりすぎて顔に出る以前の話っぽくね?」
「それだ。まさにそれ」
思い返してみれば、昔友人にも同じようなことを言われた気がする。
三宅くんはなんでわかったんだろう。
私ってそういうイメージなのだろうか。
「そうか。瀬戸ちゃんは自分に鈍感なんだ」
「周りにもね」
「鈍感っていうかさ、無関心なんじゃねえの?自他関係なく、色恋にさ」
「あー、そうかも。すごいね、三宅くん。なんで私のことそんなにわかるの?」
「なんでって……イメージ、かな」
「それって、女の子のイメージとしてあんまり良くないよね」
色恋に興味のない女の子。
いいよ。私にはバスケがあるさ。バスケが恋人なんだよ。
「っていうかさ、なんで俺ら真面目に恋愛について語ってんのかね?」
「間違いなく英志の見た夢が原因だろ」
「じゃあ、話戻すけどレオナルドってさー」
「レオナルドトークはもういいでしょ!」

結局さっきの古賀くんの夢の話に戻ることになったけど。



―――― 俺だったら相手に宣言なんかしないで、

―――― 好きだっていうのは絶対に秘密にしてる


私は誰かを本気で好きになった経験なんてないけど、自分の気持ちをひた隠して好きな子や同じ人を好きになった友達の隣にいるより、いっそ全てを打ち明けてしまった方が楽になれるだろうと思う。


だけどそれは、先に言ってしまったもの勝ちみたいなところがあるから、打ち明けてしまった時、自分以外の誰かの心を乱すことになるとすれば、言わないのも一つの優しさなのかもしれない。


自分の気持ちを押し殺して、友情と恋愛の間をいったりきたり。


それはきっと、


平行線をたどる関係。


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